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番外 あっしくん編
ジジジジ…と耳障りな音を立てて蝉が飛んでいく。俺はそれをガラス越しにぼんやりと眺めてから視線を元に戻した。
「疲れたなら休憩するか?」
「う〜ん…」
気遣わしげにこっちを見るあっしくん。の、隣の由音はすごい目が据わってる。俺より由音の方が疲れてそう。
俺達はそろそろやってくる夏休みのために、先に配られてる課題に取り組み中。フライングしてもいいっていわれてるし、1年生の夏休みはなるべく遊びたい。
「うん。ちょっと休憩」
ペンを置いて、そっと息をつく。
少しでも進めておけば後々楽だし、そもそも課題も多いし頑張ろうと思ってはいる。
思ってはいるんだけど…。
最近、彼氏との接触が、足りていません。
クラス違うし、帰る方向も違うし、仕方ないんだけどさ。寝る前に電話したりとか、休日たまに会ったりとか、会えない時は電話したりとか、そういうのはしてる。
でも、俺は…あけすけな言い方をすれば触りたいわけで。触りたいって言うか、包まれたい。
「何か買いに行くか」
「俺アイス食べたい」
あっしくんの提案に、真っ先にあおが立ち上がる。残念ながら学校にアイスの自販機はないので、一旦外に出てすぐ裏にある駄菓子屋さんへ行かなければならない。
「俺もアイス食べたい」
目頭を揉みながら由音も立ち上がった。
「…日高くんが一緒なら大丈夫か」
「あっくんは俺を何歳児だと思って…」
「あっしくんもアイス?」
「俺は飲み物買ってくるかな。七織は?」
「俺もお茶買いたい」
図書室を出ると、むわっとした暑い空気が肌にまとわりつく。
「暑…」
そう言いながら俺の手はあっしくんへ伸びてしまう。あっしくん平熱高めだから、夏場はあんまりベタベタされたくないかなぁ…とか思いつつ、腕に触れる。
「七織、エアコンで冷えてねぇ?」
「え、そうかな」
「腕冷たい」
あっしくんの手のひらが俺の前腕を包むように触れた。あったかくて気持ちいい…。
これだよ、俺が求めてた体温は。
「七織が締りのない顔してるけど、とりあえず俺たちアイス買いに行って来んね」
「一言余計だけどいってらっしゃい!」
「気を付けてな。よりを頼む」
「だからあっくんは俺を何歳児だと…」
あおに見られてた恥ずかしさを紛らわすように、「俺たちも行こ」とあっしくんの腕を引いた。俺のひょろい腕とは違って、ギュッと引き締まった腕。腕を絡めるようにした俺にあっしくんは笑ったけど、何も言わなかった。
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