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第36話 続・山田オッサン編【25-1】

 佐藤弟と山田妹の結婚が決まったってコトで、集まって飲むことになった。  とある土曜の夜、場所は都内某所の居酒屋。  今夜は次郎を山田母に預けて妹も出席していて、山田に呼ばれた本田もしっかり鈴木にくっついてきて、総勢7名という所帯だった。 「しっかし早かったよなぁ」  田中がジョッキを傾けながら言ったのは、出会いから結婚までのスピードについてだ。  そーお? と佐藤弟が応じた。 「まぁそれもこれも、2人のイチさん愛だよねー。シオちゃん」  結婚予定の男女は笑顔を見交わし、それ以外のヤツらはそれぞれの反応を示しながら目を見交わした。 「共通の好みや趣味があると、やっぱりうまくいくものですか?」  本田が訊いた。隣の鈴木は我関せずのツラだ。  8人用掘り炬燵席の片側に鈴木、本田、山田、佐藤。反対側に佐藤弟と山田妹と田中の3人。別に狙ったわけでもないのに既婚者およびプレ既婚者のメンツと、まるで予定のないメンツが対峙する構図となった。  本田が来ることに文句を垂れてた鈴木はそのクセ何故か一緒に現れておきながら、2人まとめてシートの奥に押し込められるとやっぱり不満を露わにして乙女ゲー王子の向こうから冷ややかに言った。 「小島でも呼べばちょうど良かったんじゃないスかね。あっちの所帯持ちの列に1人分空きがあるし」  その言葉に山田の隣の佐藤が若干ピリついたが、飲むモン決めろよと田中がメニューをぶっ込んできて事なきを得た。  まぁ決めろも何も全員、生なワケだけど。  ──で、さっきの本田の質問に至る。 「共通の何かは、うんまぁ、あったほうがいいよねー?」  弟が言いながら田中を見て、田中は曖昧に首を捻った。 「ウチは食べ物の好みが似てるぐらいしかねぇけど、同じ趣味とかないよりはあったほうがいいとは思うよな。一般論として」 「田中さん、結婚生活おもしろいスか?」  鈴木がさらりとツッコみ、田中がニュートラルなツラで受け流すのを佐藤がチラ見し、彼らを一瞥した紫櫻に、煙草を咥えた山田が吸っていいかと訊いた。 「いいわよ、次郎いないし。皆さんもお気遣いなく」 「お前はもう全然吸ってねーの?」  山田兄の言葉に他のヤツらが山田妹を見た。  佐藤弟が口を開けた。 「え、シオちゃん吸ってたの?」 「お前、そりゃもうコイツ、俺よりチェーンスモーカーだったぐらいだぜ?」 「マジで? なんで今まで教えてくんなかったのシオちゃん?」 「とっくにやめた煙草の話なんて、過去の男について語るのと同じくらい無意味なことだと思わない?」  紫櫻の言葉に、野郎どもは各々宙を見て考え、各々あぁ……と呟いた。  田中が訊いた。 「いつやめたの? やっぱり子供生まれるタイミング?」 「そうです」  紫櫻が頷き、だよねだよねと2人は佐藤弟を挟んで拳を合わせる。  間にサンドイッチされてる佐藤弟に本田が訊いた。 「サトケンさんとシオさんは山田さん以外の共通の趣味って何かあるんですか?」 「うーん、コレってのはないけどイチさんでわりと十分だしなぁ」 「共通の趣味の対象が人間ってのが意味不明だろ」  佐藤兄の低いツッコミに佐藤弟が目を眇めた。そんなツラで睨み合う兄弟は、ハタから見てる限りソックリだった。 「じゃあ訊くけどイチさんと兄貴は何かあんのかよ? 共通の趣味とか?」  佐藤兄と山田が無言で目を見交わし、他の全員が2人を見守り、そのまま数秒経過したのち本田が鈴木に向き直って言った。 「共通の趣味はなくても大丈夫そうですね」 「なんで俺に言うの?」 「だって共通の何かがないと続かないんだとしたら、ちょっと不安じゃないですか?」 「だから俺と本田くんで何を続けんの?」 「なぁなぁお前ら、ホントはどこまでいってんのか教えろよ、いい加減よ」 「別にどこにも行ってませんけど山田さん」 「え、鈴リンと修ちゃんって、やっぱマジでそういうアレなの?」 「アレなわけないし、やっぱって何? そういうネタは山田さんたちだけで十分だと思うんだけど」 「でもさぁ? 次郎を預けに行ったときって、大抵一緒にいるよね?」  佐藤弟の発言に先輩トリオが鈴木と本田を見て、本田がはにかんだ笑顔を浮かべる隣で鈴木のこめかみに筋が浮いた。 「本田くんが勝手に来てるだけだから」 「でもさぁ、押しかけて来ても居留守とか使わないんだ?」 「あら私、そういう関係なのかなぁって思ってたけど違うんですか?」  むしろ意外そうだった紫櫻の声は、どこか落胆の色を掃いていたようにも聞こえたが気のせいだろうか。野郎どもは思った。が。  続いた呟きに、気のせいじゃないことを彼らは確信した。 「本田さんが次郎を抱っこして鈴木さんと並んで歩いてる後ろ姿、インスタに載せたらすごくいい反響だったんだけどなぁ」 「──」  野郎の間で視線が複雑に交錯した末、最後に全員の目を受けとめた佐藤弟が慎重なツラを未来の妻に向けた。 「えっとシオちゃん、そんなことしてたの?」 「子育ての息抜きにね。でもお2人の写真は顔も写ってない遠目の盗撮ですからご心配なく」  ほぼ何の説明にもなってない答えのあと、後半は鈴木たちに向けられた何の言い訳にもならないセリフだった。 「望遠レンズで、できるだけ絞りを小さくしてボカして撮ってるし。我ながらなかなかの出来なんですよ」  山田兄と似ても似つかぬ美しい笑みでそんなことを言われても、野郎どもにはちっとも理解できなかった。 「シオちゃん、こないだ買った一眼そんなことに使ってたの?」 「あら嫌だ、もちろんメインは次郎を撮るためよ?」  そんなやり取りの対岸で珍しく言葉に詰まる鈴木の横で、あ! と本田が声を上げた。 「そっか共通の趣味、次郎くんですね僕たち。ね、鈴木さん」

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