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第69話 続・山田オッサン編【45-2】#
カーテンを閉めて電気を消し、暗さに目が慣れてしまわないうちに速やかにコトを進めるスピード感が要求される。
まずは早速、隣人からスタート。
「ん? 水音しねぇけどエリカ入れてる?」
「入れてますよ」
「その会話、暗がりで聞くとそこはかとないエロさが漂っちゃうのって何スかね」
「おいおい鈴木が欲情してんぞ本田、どうにかしてやれよ」
「え、あ、何かしましょうか鈴木さん」
「何するつもり? 本田くん。てか、してないから欲情。あのねぇ山田さん、自分がすぐされたくなるからって巻き込むのやめてもらえます?」
「はぁナニ言ってんの鈴木? 俺が何をされたくなるって? てか鈴木お前、こないだ本田をシュウ……」
「エリカはもう入れ終わったのかな。次、弟くん?」
「コラ鈴木っ、話逸らしてんじゃねぇ、本田とどこまでやってんだよマジで!?」
「ひょっとして皆さんはそういう嗜好の方々の集まりなんですか?」
「ちょ、違うからねエリカ! 俺は結婚してっからね! ちなみにイチさんの妹と!」
「あ、そうなんですね。イチさんっていうのは?」
「俺オレ」
「あぁ山田さんですか?」
「言っとくけどそういう嗜好なのはここの住人2人だけで、俺も違うからね」
「だから鈴木お前、そんだけ本田と熱愛中で2人きりのときは名前呼びまでしちゃってるクセに何イチ抜けよーとしてんだよ?」
「熱愛中だなんて、そんなんじゃないですよう」
「なんか照れたみたいに言うのやめてくんないかな本田くん、本気にされるから」
「鈴リン俺入れたよ、てかマジで修ちゃん名前で呼んでんの?」
「呼んでないよ」
「ホントに呼んでないの修ちゃん」
「えっと……」
「いい加減白状しちまえよ鈴木も本田もよ!」
「で、山田さんたちはやっぱりそうなんですか?」
「は? やっぱりって何、エリカ」
「だってそんな意味ありげな指輪してるのに男2人で住んでるって言うし、どうりで俺の趣味を聞いても動じないから、そうかなとは思ってたんです」
「いや何言ってんの、カテゴリ違うんだから趣味関係ねぇし。それに佐藤はともかく俺は動じたぜ? 目一杯。何とか自分を保っただけだぜ? てか言っとくけど別にそういう嗜好じゃねぇからな、俺の嗜好は野郎じゃなく佐藤なだけだからな、間違えんなよ?」
「嗜好が兄貴とかさりげなくノロケんのやめてくんねぇ、イチさん。傷つくから」
「そんなにお兄さんが好きなんですか? えっと……サトケンさん?」
「違うから! 気持ち悪ィこと言うのやめてエリカ! 兄貴じゃなくてイチさんが好きなの俺は!」
「あぁ、じゃあ奥さんのお兄さん……ていうか、お兄さんの彼氏を好きなんですか?」
「な? フクザツだろ?」
「つまり結婚はしてるけど結局そういう嗜好なんですねサトケンさんも」
「そうか、そうとも言えんのかぁ?」
「何なんだこのユルイ会話」
「ん? てかちょ、なんか急にすげー甘い匂いが漂い始めたんだけど!!」
「ホントですね」
「お約束のモノ入れやがったな!? 誰だ今入れたのは!」
「てか今どこまで回ってんだよ? 本田か?」
「僕は今からですよう」
「てことは、この甘い匂いは鈴リン?」
「まぁ鈴木はどうせ間違いなくロクでもねぇモン入れると思ってたぜ」
「失礼っすねぇ佐藤さん。ひとつはマトモなモノ入れましたよ」
「お前のマトモの定義が信用ならねぇんだよ」
「じゃあなんで呼んだんスか? 単に会いたかったから? やっぱりホントは山田さんより俺のほうが好きなんじゃないんスか佐藤さん?」
「やっぱり? ホントは?」
「そうだって言ったらどうなんだよ鈴木?」
「山田さんと違って俺、しゃぶったことないけどいいスか?」
「はぁフザけんなよ鈴木、ンなコトしてねぇから!」
「またまた山田さん、10年以上寝てんのに? あり得ないっすよ」
「そんなに長いんですねぇ、お2人は」
「なぁ、エリカは彼氏いんの?」
「弟くん、強引に話題変えたよね今」
「だって! 耐えられねぇんだもんイチさんが兄貴の×××をしゃぶるとか兄貴にしゃぶられるとかいうハナシ!」
「ちょ、コラ弟! 俺がしゃぶられるとか今誰も言ってなかったし!」
「だってどーせしゃぶられてんだろ!? 兄貴に×××しゃぶられて××××揉まれながら×××××に突っ込まれて×××てるイチさんなんて想像もしたくねぇんだよ!」
「お前な、いくら暗闇で野郎ばっかだからって伏せ字だらけのセリフはやめねぇか」
「てか、されてねぇからンなコト!」
「想像してるからそんなにスラスラ出てくるんだよね、弟くん」
「佐藤さん、山田さんにそんなことしてるんですか……?」
「お前も鈴木にやりてぇのか本田?」
「だからされてねぇって!」
「本田くんにヘンなこと吹き込むのやめてくれませんかね佐藤さん」
「あぁそうだ鈴木、しゃぶったことがねぇなら本田で練習してから来いよ。本田をイカせられるぐらい上手くなったらしゃぶらせてやっから」
「いいんスか? そんなこと言って。俺にやらせたら早漏の自分を発見しちゃいますよ?」
「未経験にしちゃずいぶん自信満々じゃねぇか鈴木?」
「鈴木さんが僕の──」
「あれ、ちょっと本気にすんのやめてね本田くん」
「ていうか佐藤さんの×××なんてしゃぶっちゃダメです鈴木さんっ!」
「なんて、って言ったか? 本田」
「え、ちょ、修ちゃんだよね? いま自主規制用語喋ったの?」
「あ、そうだ山田さん。今度下着貸しましょうか? 冗談じゃなく」
「冗談でもやめてくんねぇか、エリカ」
「あ、そうだ。もっかい訊くけどエリカは彼氏いんの?」
「彼氏じゃなくて彼女がいますよ」
「えー、そーなんだぁ? じゃあ女装はホントに単なる趣味なだけ?」
「そうです」
「あの佐藤さん、入れましたけど」
「おぅ」
「なんか若干生臭ェっつーか、そろそろカオスな匂いがしてきたぜ……?」
「なぁエリカの彼女って女装のことどう思ってんの?」
「彼女は知らないんですよ。まだ付き合い始めて3ヶ月で、言っても大丈夫かどうかを見極めてる最中です」
「マジ? てか、知れたら破局の危機とかなんねぇ?」
「なるかもしれませんけど、そうなったらしょうがないですね」
「えーっ、それでいいわけ!?」
「彼女は替えが利きますけど、自分の趣味はそうはいきませんから」
「おっと……鈴木みてぇな口調で鈴木みてぇなコトを言うヤツが現れたぜ?」
「何でいちいち俺を出すんスかね、山田さん」
「山田、お前で最後だぜ」
「了解」
「ちなみに彼女と女装したエリカ、どっちがキレイ?」
「うーん、そうですねぇ」
「え、まさかエリカのほうが……?」
「ちょっとさぁ、あとで明るくしたら彼女の写真見せてくんねぇ? いや今でもいいけど」
「明るくしてから見せますよ。暗がりで見るより何かとゴマかしが利きそうなんで」
「こりゃあ遠からず破局するほうに百円だな……」
「百円かよ」
「──ん?」
「ちょっと待てよ?」
「ヤベェ! なんかすげぇニオイしてきた!」
「ちょ、ナニこれイチさん!?」
「いや訊かれて答えたら闇鍋になんねぇじゃん?」
「山田お前、まさか冷蔵庫にあったアレを……」
「いやいや、たとえ拷問されたって答えねぇよ? 俺は。闇鍋のルールは絶対だからな! てかお前ら、わかってんだろうな? ルールどおり暗闇で! いっぺん取ったモンは戻さねぇ! 全員でスープまで完食!!」
こうして野郎どもは一丸となり、阿鼻叫喚の地獄絵図へと突入していくのだった。
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