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第98話 続・山田オッサン編【60-7】

「一緒に暮らしましょうよ、とりあえず」 「え、なんでいきなりそこに飛ぶの?」 「ね、鈴木さん。見てください周りを」  そう言うから、鈴木はとりあえず周囲を見回した。砂場で遊ぶ次郎、道具を貸してくれてる知らない子、他の遊具で遊びに興じる子供たち、話に夢中で我が子を見てもいない母親たち。 「いつ子供が誘拐されてもおかしくない状況だね」 「そういうことを言ってるんじゃないですよ!」 「じゃあ何なの?」 「いいですか鈴木さん。次郎くんがいて、2人で彼を見守りながら公園で平和なひとときを過ごす。こういうことが日常になるんですよ、ここらへんで一緒に暮らしたら」 「俺的には平和っていうよりむしろ、どこに危険が潜んでるかわかったもんじゃない光景に見えるけど。まぁそれはともかく、だからもう一緒に暮らしてるようなモンだよね今、不本意ながら」 「ようなもの、っていうのは要するに似て非なるものですよね」 「あのね、シュウ──」  鈴木が言いかけたときスマホが鳴り出し、2人は同時にポケットを探った。 「あ、僕じゃないです」 「紛らわしいから同じ着信音にするのやめてよね本田くん……ハイ鈴木っす」 「どこいんの? 昼メシ食いにいこーぜって言ってんだけどぉ」  電話の向こうから先輩の声がチンタラ飛んで来た。  鈴木が場所を告げると、じゃあそっち行くから待ってろと言って電話は切れた。 「何だったんですか?」 「こっち来るって。昼メシ食いに行くらしい」 「じゃあ皆さんが来る前に、さっきの続きを聞かせてください」 「さっきの続きって?」 「電話くる前に何か言いかけましたよね、鈴木さん」 「そうだっけ、もう忘れちゃった」 「えぇ鈴木さぁん」 「メシって何食いに行くのかなぁ」 「もー鈴木さぁん」  そんな埒の明かないやり取りを繰り返すうちに先輩2人と次郎の両親がやって来て、砂場で遊び道具を貸してくれた子供に礼を言い、母親と紫櫻が話に花を咲かせる間、野郎どもは手持ち無沙汰に待っていた。 「片付けのほうはどう?」  鈴木が佐藤弟に訊いた。 「まぁ、まだまだだけど今夜とりあえず寝られればいいしねー。それよりもイチさんが引越し業者をタラシ込むし、そもそもエリカのニーチャンと仲よすぎだとかって兄貴が嫉妬のあまり機嫌悪くなるしで、ホント参るっつーの」 「話を作るな、誰がいつ機嫌悪くなったんだよ」 「そーだよハナシつくんなオトート、誰がいつタラシ込んだんだよ?」 「ホントのことじゃん兄貴、ニーチャンだけじゃなく番犬までタラシ込みやがってどーのこーのってイチさんに文句タラタラだったじゃん? そんでイチさんだって俺の目の前で業者のニーチャンに手なんか握らせてさぁ」 「ちょっと待て、だからタラシ込んでなんかねーし番犬はもっとそういうんじゃねぇって」 「それはつまり、あの兄貴のほうはそういうんだって認めるんだな? 山田」 「だからぁ! どいつもコイツもそんなんじゃねぇって」 「あの、エリカさんのお兄さんが犬を連れて来たんですか?」  疑問符だらけのツラで口を挟んだ本田を野郎4人が見た。 「あ、いや修ちゃん……犬っつーか、犬みてぇな野郎だよ」 「犬みたいな人ですか?」  全く腑に落ちない風情の本田の横で、鈴木が山田を見た。 「エリカといえばさっきベランダで、家業がどうとかって言ってましたよね山田さん」 「あぁそれな。まぁその、エリカんちの実家がヤベェ家業やってるみてぇで。どこの系列だとか、どんくらいの規模だとかは聞いてねぇけど」  へーえ、と相槌を打つ鈴木に、やばい家業って何ですか? と本田が訊く。ヤクザだよと鈴木が答えると、乙女ゲー王子はサッと顔を強張らせた。 「大丈夫なんですか? それって」 「え、何それもしかして怖がってんの? 本田くん」 「鈴木さんは怖くないんですかぁ?」 「今のところ怖がる理由は特に見当たらないよね」  鈴木が言うと、王子の顔が今度はサッと引き締まった。 「じゃあ僕も平気です」 「何それ?」 「お前らホント連動してるよなぁ、鈴木と本田」 「してませんから山田さん」 「ねぇねぇ鈴リンと修ちゃんってマジでどうなってんの?」 「何の話? どうにもなってないよ」 「どうなってんの修ちゃん?」 「え、あの、どうにもなってません」 「だからコイツら連動してっから2人揃ってるときに訊いても無駄なんだよ、弟」  そこへ山田妹と次郎がやって来た。 「お待たせしてごめんなさい、話が長引いちゃって。あのお母さんとお子さん、同じマンションの人だったの」 「へぇ、じゃあ俺らも会ったことあんのかもなぁ。見憶えはねぇけど」  山田が言い、 「そっかぁ、同じくらいの子供がいると心強いよねシオちゃん。お母さんもシオちゃんと同い年ぐらいだよね多分?」  弟が言って、とりあえず一同は歩き出し、 「うん、そうね。でも彼女、ケンジくんと佐藤さんがドストライクに好みのタイプらしくて、でもケンジくんは私の夫だから佐藤さんに興味津々みたい」  紫櫻が言うと野郎どもが全員沈黙した。

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