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第16話
秋が深まるとともに、悠真の恋も深まった。
そして、文化祭当日もやって来た。
「ラストシーン、頑張って!」
「思うように演じていいから!」
「後は任せたぞ!」
そんな部員たちの声援を受け、悠真は舞台に立っていた。
『夕鶴』は、『鶴の恩返し』の名で子どもの頃から親しむ人間が多い演目だ。
ストーリーが解っているので、観客の生徒や教師は気楽に演劇部の公演を楽しんだ。
筋が読めるため、どうしても演じる人間へ注目が集まる。
あいつの演技は下手だ、こいつの演技はまぁまぁだ、などと無責任な批評が始まる。
しかし悠真は、その辛口評価の中で、ぎりぎり及第点を取っていた。
「吉行、やるじゃん」
「財津には、負けるけどな」
しかしこの演劇は『夕鶴』ではなく『夕鶴異聞』だ。
どこが、どう違うのだろう。
観衆が謎に首をかしげる中、いよいよクライマックスがおとずれた。
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