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ActⅠ Scene 1 : 探偵カルヴィン・ゲリー。⑤

 カルヴィンは弱気になる自分の考えを否定するため静かに首を振る。  気を取り直して調理台に立つと、開放式レンジの上に置いてある鍋に水を入れ、火を灯してじゃが芋を蒸す。  じゃが芋が出来上がるのを待つその間に、身支度を調えることにした。  まずはこの躰を清めなければならない。  たしかどこかの医師が、"躰を清めることこそが感染症を防ぐ"と唱えていた。  シャーリーンの命を奪った犯人を見つけるという目的を持っている自分には、今はまだ家族の元には逝けない。  カルヴィンは昨夜のうちに用意してあった、洗面器と汚水バケツ、それから浴用布とラベンダーの石けん。水が入った水差しをそれぞれベッドの下から取り出した。  服を全部脱がなくても良い立ち洗いはいたって合理的な方法だ。なにせ必要になる部位だけをほんの少し脱いでいけば可能になるのだから。  カルヴィンは慣れた手つきで洗面器に水差しをそっと傾け水を注ぎ込むと、浴用布にたっぷりと水を染みこませた。顔が終われば首へ。腕が終われば胴体から下半身へと丁寧に躰の部位を洗っていく。  紳士淑女も、上流階級でもそうでなくても、朝はこうやって皆が清潔に躰を清めた。  そうして躰の清めが終われば歯を磨くのも、この国の人々にとっての嗜みのひとつだ。  樟脳入り歯磨剤を使う人々は多かったが、中でも安価に手に入れられる煤が気に入っていた。歯が白く磨き上げられるし、匂いも取れる。磨き終えたあとは口の中をきちんとすすげば問題なく使えたからだ。

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