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ActⅠ Scene 3 : 持ち前の運動神経を試されるとき。①

 時刻は午後十一時を回っている。  吐く息は白く、夜の帳からは霧雨にも似た小さな雪が落ちはじめている。  今時分に出歩いている人は滅多にいない。  一年の中でもっとも寒い季節の今、暖をとるのも余計な出費を重ねてしまうことを懸念し、倹約している人々のほとんどはベッドの中にいた。  しかし、例外はいる。  ――もし、シャーリーンたちを襲った犯人なら、きっと人目に付かない今こそがチャンスだと考えるはずだ。  彼らは闇に紛れて動くに違いない。現に、姉のシャーリーンがこの世を去ったのは今の季節だった。そして犯人は社交パーティーが開かれ、終わりを告げる時を狙い、自分の目に敵った美女を捜し出してその手にかけるのだ。  カルヴィンは今日という日の一日を、ゴシップ誌に載っていた亡くなった女性の身元を探すべく、こうして昼夜問わず駆け回っていた。  社交パーティーが開催されるのは満月の夜と決まっている。  今夜は新月。だからおそらく犯行は二週間前だ。  会場さえどこで開かれたのかが判明すればすぐに遺体の身元も割り当てられる。そうなれば犯人と亡くなった女性との関係性ももしかしたら分かるかと思っていた。――のだが、世間はなかなか広い。部屋を出た時は太陽が頭上にあったのに、今は闇が覆っている。  社交パーティーが開かれただろう邸宅を探し回った結果、こんな時間になってしまった。  湿った空気の中で冷たい風が巻き起こる。枯葉が風に遊ばれて円を描いて去っていく……。  かなりの寒さだ。  カルヴィンは、ひとつ身震いすると両腕で躰を包み込んだ。

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