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ActⅠ Scene 3 : 持ち前の運動神経を試されるとき。②

 こういうこともあろうかと、事前にラウンジスーツの下にジレを着込み、防寒具として分厚いオーバー・コートを羽織ってもけっして寒さは凌げない。加えて街灯は数キロ離れたそこにぽつんと佇むのみで、それもまた寒さを感じさせた。  ただでさえ、なだらかな石畳で舗装された裏路地は人通りが少ないのに加えて、この時間帯になれば誰もいない。しかもほんの少し舗道から外れるとそこは斜面で、鬱蒼(うっそう)と茂った木々が広がり、ぱっくりと闇が口を開けている。  ここは日中でも陽光に恵まれず薄暗い。おかげで剥き出しになっている地面は水分を多く含み、じっとりとしている。薄気味悪い場所でこうして冷たく湿気を含んだ夜気に触れていると気分はさらに憂鬱(ゆううつ)だ。  新月の今夜は月明かりも頼りにはならない。薄暗い闇夜の中でカルヴィンの視界を助けてくれるのは、頭上に広がる藍色の空に散りばめられた星々の瞬きと、手にしているオイルランプの小さな明かりのみ。  視界は(すこぶ)る悪い。  冷たい空気の中でこうして突っ立っているだけで凍えそうだ。  ここは本当に悪魔でも出そうだ。  カルヴィンは現実主義だ。この世の中にサタンなんているわけがないと思っている。  それでも、怖いものは怖い。  薄暗い視界と身も心も凍りつくような寒さではさらに恐怖が増す。  カルヴィンは幼い頃から本の虫だった。そのこともあってかたくましい想像力のおかげで色々な幻影を作り出してしまう。  ――けれど。

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