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ActⅠ Scene 5 : 潜入! 賭博クラブ。①

 一昨日前に路地裏で出会った男の情報はカルヴィンが想像していたよりもずっと早く手に入った。  男の名はクリフォード・ウォルター。  年は三十二歳。彼は代々続く伯爵家の生まれで、病弱な母親は彼を生むとすぐ息を引き取り、父親は彼が二十歳を迎える頃、行方不明になった。  親戚はなく、身寄りもない。  一人孤独に生きてきたこともあってか、クリフォードは少々変わり者だった。今から十年前、父親が行方不明になった明くる年に、彼は代々受け継いでいる伯爵家とは別に、隣町に大きな賭博クラブを構えたのだ。しかも、これまで先祖代々から受け継がれてきた屋敷を捨て、新たに建てた賭博クラブの屋敷の中に住居を構えて――である。  彼は伯爵でありながらも青年実業家として成長した。  伯爵ともなればかなりの地位も収入源もある。それなのになぜ、賭博クラブなんてものを経営しようと思ったのか。  貴族の道楽のつもりか、はたまた何か理由があってのことなのか。  カルヴィンたち一般人にはクリフォードの考えていることがさっぱりわからない。  そういうこともあってか、世間では彼を不気味がっていた。もしかすると母親の死と父親の謎の失踪もクリフォードによる仕業ではないかという噂さえも流れている。  人々はウォルター一族をこう呼んだ。  "CURSED BLOOD(呪われた血族)"と――。  無愛想で身寄りもないクリフォードはまさに容疑者として申し分ない。彼こそが犯人だ。  そう判断したカルヴィンは決定的証拠を掴むため、今夜から彼が経営する賭博クラブに通い詰めることにした。

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