23 / 275
ActⅠ Scene 4 : 墓標での誓い。④
そこから仮眠をとり、起きた時間がもうすぐ一日の終わりという日が暮れ始める夕方になったものだから、両親とシャーリーンへの報告がすっかり遅くなってしまった。
懐に仕舞ってある懐中時計を見れば、時刻は午後十八時を過ぎている。
頭上では灰色の雲が太陽から月に変わるその姿を隠している。今にも雪が降り出しそうな天気だった。寒空がずっと遠くの方まで広がっている。
おそらく帰宅する頃にはすっかり夜も更け、暗くなっていることだろう。
昨夜からカルヴィンの日常が狂いっぱなしだ。
それもこれも、すべてあの男のせいだ。
だが、あの男の身元を断定するのはけっして難しくないだろう。なにせ彼が着ている服はとても上質なものだったし、滑らかな線を描いた生地には着古した皺ひとつ見当たらなかった。
そして極め付けは彼の美しい姿だ。既製品とは違い、余分なゆとりがない服は引き締まった躰のラインに添っていた。衣服から察するに、身分はおそらく五爵位のうち第三位の伯爵以上。
ともすれば、人数はかなり限られてくる。
頼りないオイルランプの明かりに照らされた薄闇の中でもわかるくらい美しい容姿はまるでこの地に降りた天使のようでもあった。
――さて、自分は今し方いったい何を考えていただろう。
カルヴィンは思考があらぬ方向に行ってしまいそうになったのを感じて我に返った。
恐怖に負けてはいられない。
明日から捜査開始といこう。
「父さん母さん。――姉さん、見ていて。きっとぼくが犯人を捕まえてみせるから」
カルヴィンは足下に置かれている百合の花束を見下ろした。
花を手向けてくれたこの人物のためにも、是が非でも犯人を捜さねばならない。
固く拳を握り締め、墓標の前で決意新たに誓いを立てた。
《Scene 4 : 墓標での誓い。/完》
ともだちにシェアしよう!