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ActⅠ Scene 5 : 潜入! 賭博クラブ。⑤
萎縮してしまった姿勢を正し、座り直す。すると五十代半ばくらいだろうか。
頭にはシルクハットを被り、丈の長い黒のフラックコートに身を包んだ中年紳士がカルヴィンに話しかけてきた。彼は金持ちだということをひけらかしたいのか、刺繍が入った絹のジレを見せつけるかのように、胸を張っている。
火照った顔に焦点が定まらない胡乱 な目。
男は相当酔っているらしい。
もちろん、彼とは初対面だ。――にもかかわらず、まるで自分の所有物であるかようにカルヴィンの背に腕を回してくる始末だ。
加えて風船のように膨らんだ腹の殆どがアルコールだろう、しゃくりと一緒に口から吐き出される息はねっとりとした熱を持ち、頬に当たる酒臭い匂いが不快だ。
男は口髭を撫でながら、カルヴィンの足の爪先から肢体へと舐め回すように視線を這わせた。
不快な口臭に品定めをするじっとりとした視線。回された腕の感触のなにもかもが気持ち悪い。
この男といるとまるで自分が男娼のような気分に陥らせてくる。落ち着かない。
今の自分がひどく惨めに思えてくる。
ああ、クリフォード・ウォルターの姿が見えない。
なぜ彼は現れてくれないのだろう。
彼さえさっさと姿を現してくれれば、自分は探偵としての仕事を全うできるし、このクラブに入り浸っている連中たちからは夜の相手を求める寂しい性の男だというふうにも見られないのに!!
今、自分が置かれているこの状況の何もかもが彼のせいに思えてくるから腹立たしい。
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