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ActⅠ Scene 5 : 潜入! 賭博クラブ。⑦

 それと相俟って涼しい目元と高い鼻梁。漆黒の短い髪も――彼の何もかもが優れた芸術作品のようだ。  圧倒的存在感。  クリフォード・ウォルターとは一昨日前に出会ったばかりだが、こうしてあらためて明るい場所で彼を見ると、クリフォードという人物がさらに際立って見えた。ひと目見ただけで貴族としての資質に秀でていることがわかる。彼は一般人とは違う高貴な雰囲気を纏っていた。  ――いや、それだけではない。  彼が姿を現した、たったそれだけで賭博クラブの空気が研ぎ澄まされる。それはまるで純粋な水でできた氷のように静かで洗練された美が、彼にはある。この地に舞い降りた漆黒の堕天使――そう呼ぶに相応しい。  カルヴィンはキリストを崇拝してはいない。だからこれまで悪魔の存在を信じていなかったわけだが、ここへきて考えを改めた。  もし、彼が悪魔だとするならば。女性のひとりやふたり、誘惑するのもわけはない、と――。  果たして自分は悪魔と戦えるだろうか。  緊張が一気に高まる。カルヴィンの口内は渇き、喉はひりつく。  堕天使さながらの彼は今、黒のスーツに身を包んだ支配人と思しき成年と話している。  年の頃ならおそらくクリフォードと同じかもしくは少し下か。  彼はロマだろうか。太陽に愛された褐色の良い肌。鋭いが、どこか茶目っ気のある目元。高い鼻梁と薄い唇。肩まである波打つ黒髪は後ろでにひとつに束ねられている。クリフォードが経営するここは支配人すらも美しい。

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