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ActⅠ Scene 6 : 見慣れない客。④

 たしかにティムが驚くには無理もない。あの細い腕ではまともに相手を殴りつける動作は難しそうだ。それに相手と対峙し、身構えた時の腰付きはベッドの上の方がずっと魅力的だ。  あんな瘴気に満ちた陰気くさい殺人現場ではなく、天蓋付きのダブルベッドに身を埋めるのもいいだろう。引き締まったヒップもなかなか魅惑的だ。  それにあの可愛らしい薄い唇。口づければいったいどれほどの甘美が訪れるだろう。そして甘やかな声で喘ぎ、自分の名を呼ぶのだ。  そこでクリフォードは、はっとした。  なにせクリフォードは生まれてこの方、他人に性的欲求を感じたことがなかったからだ。  どんなに美しい容姿をしていても、惹かれたことはまるでなかったその自分が他人に――しかも自分と相反する探偵に惹かれるなんて……。  クリフォードは唇を噛みしめた。 「それで探偵がなぜここに? クリフォード、君はいったい何をやらかしたんだい?」  ティムは訝しげにクリフォードを見た。 「――一昨日前のことだ。奴の足取りを追跡するために例の現場に向かった。思ったとおり白骨化した遺体を見つけたんだ。そこで彼と出会した。どうやら彼はぼくが今世間を騒がしている例の殺人犯だと疑っているらしい」  ティムは最初こそ驚いてみせたが、クリフォードの容姿をあらためて確認すると大きく頷いた。  たしかに、ここのオーナーは世間一般から"CURSED BLOOD(呪われた血族)"と噂されていることはたしかだ。

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