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ActⅠ Scene 6 : 見慣れない客。⑤
母親はクリフォードが生まれると早くに他界し、父親は自分の欲望を満たすためにクリフォードを捨て、消息を絶った。
あまりにも憐れとしか言いようのない生い立ちだった。
そんな過去を背負っているからだろう。大人を頼れなかった孤独な少年はにこりとも笑わない無愛想な成年へと成長した。
彼は伯爵という地位であっても社交界に出席もせず、自由奔放。他人に無頓着ときている。
けれどもクリフォード・ウォルターは人を殺めるような男ではないことは、未だ根強く残っている人種差別のおかげで行く当てのないロマの自分を雇ってくれたティム自身がよく知っている。
クリフォードは世間一般から見れば常識外れではあるだろう。この非会員生の賭博クラブがいい例だ。それ故に世間の人々からすれば逸脱している彼を奇妙な異物でも見るような目を向ける。
しかし裏を返せば優れた経営者だからこそ為し遂げられる。
彼は古い考えを捨て去り、新たな手法をもって時代を作り上げることのできる頼り甲斐のある男だった。
彼は面白い男だ。
常人には考えられないことをやってのける。
――とはいえ、世間では無愛想で無頓着。おまけにユーモアのかけらもない冷酷な青年実業家だから、人々から畏怖されている。
普段のクリフォードを知っているからこそ、あまりにも違う見解が可笑しい。
ティムの口が弧に曲がる。
込み上げてくる笑いに絶きれず、彼は中腰になって腹を抱えた。
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