42 / 275

ActⅠ Scene 7 : 完璧な口づけ。②

 たしかに、中性的な容姿をしているカルヴィンは過去にも同性に誘われることはあった。けれどもこんな強引に連れて行かれそうになるのは初めてだ。  おかげで頭の中はパニックになる。 「いやだっ、離せっ! 離してっ!!」  クリフォードに目を付けられるとか、人々の注目を浴びているなんてことは今はどうだっていい。とにかく、一刻も早くこの男から遠ざかりたい。  助けを求めるその声は恐怖で上ずっている。自分が探偵であることも忘れ、腰を屈めて必死に抵抗していた。  汗でぎとぎとに脂ぎった腕も生ぬるい鼻息も。何かを言う事に分厚い唇から放たれるアルコールを含んだ異臭も。とにかく、この男の何もかもがカルヴィンの神経を逆撫でした。  けれどもどんなに抵抗したところで時間と体力の無駄だということはカルヴィン自身、理解していた。  愉快げに下卑た笑みを浮かべる彼らからは明らかに助けてくれそうな紳士はいなかったからだ。  それでも――。  カルヴィンはこの状況を大人しく受け入れるほど従順ではなかった。  必死に抵抗しているうちにもドアが間近に迫っている。  この屋敷を抜ければ最後。自分はこの図体も態度も何もかもが大きい男に組み敷かれ、絶望と悲しみに染まった朝を迎えるだろう。  よりにもよってこんな男に抱かれてしまうなんて……。  男の手がドアの取っ手を掴む。  カルヴィンは唇を噛みしめた。 「ならばお前が出て行け。今すぐに、だ」  男性特有の低い声がしたかと思えば、ふいに横からやってきた手が、じっとりとした男の手を掴み上げた。

ともだちにシェアしよう!