45 / 275
ActⅠ Scene 7 : 完璧な口づけ。⑤
彼の笑みは、目にしただけでも、人を殺められそうなほど冷ややかなものだった。
いったい自分はどんな目に遭わされるのだろう。
カルヴィンの背筋に悪寒が走る。
なにせ彼は人を手にかけた犯人かもしれないのだ。姉のシャーリーンも彼の毒牙にかかった可能性がある。
「――っつ」
あまりの恐怖に声を上げることもできない。カルヴィンは、ひゅっと息を飲む。
身の危険を察知したカルヴィンはクリフォードから逃れるために一歩後ろに後退る。
しかし彼から逃げることは許されなかった。
突然彼の腕が伸びてきたかと思えば、カルヴィンの躰が強引に引っ張り込まれた。
あまりの恐怖に小さな悲鳴が上がる。
胃が縮み、心臓は大きく鼓動している。
怖くて目を閉じれば……。
「ん、っふ……」
次に訪れたのは息苦しさだった。
何かが自分の口を塞いでいる。
手の感触ではない。
けれども弾力のあるそれは確実に自分の息の根を止めようとしているのだろうか。
恐る恐る目を開けてみると、なんと驚いたことにハンサムな彼の顔がずっと近くにあるではないか。それも、自分の口を塞いでいるのは、先ほど不機嫌そうにつり上がった唇だ。
「んぅううっ!」
いったい自分の身に何が起きたのだろう。理解できないカルヴィンは、息苦しさに堪えきれず、空気を求めて口を開けた。
するとまるでその機会を窺っていたかのように、湿り気を帯びたざらついた何かが口内に滑り込んできた。
ざらついたそれが動くたび、口内から水音が弾き出される。
ともだちにシェアしよう!