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ActⅠ Scene 7 : 完璧な口づけ。⑥
「ん、ぅ……」
上顎から歯列をなぞって下顎へ――ざらついたそれはカルヴィンの口内を我が物顔で這い回る。そこでようやくカルヴィンは自分が彼に口づけされていることと、口内にあるそれは彼の舌だということを理解した。
「ん、っふ……」
カルヴィンは真っ白になっていく頭の中で必死に彼の腕から抜け出せるよう、胸板を押す。しかし彼の肉体は完璧だった。貧弱な腕で押したところで分厚い胸板はびくともしない。
自分の口内か、あるいは彼の口内なのか。彼の攻めからいくらか逃げ回る舌は、とうとう捕らえれてしまった。
それでも逃げようとすれば、直ぐさまクリフォードの舌が追い、絡め取る。
いや、それだけではない。
躰の芯が熱をもちはじめている。
舌がクリフォードによって絡め取られるたび、体内の疼きは大きな波になっていく……。
先ほどとは違った震えが背筋を這う。
カルヴィンはこれまで、突然この世から去ったシャーリーンの仇を討つことばかりを考え、生きてきた。
そんなだから、カルヴィンには恋愛経験すらまともにない。おかげで未だにキスさえも経験がなかった。
だから与えられる口づけだけでこんなに躰が震えることも、熱をもつことも知らなかった。
躰が熱い。焼けるようだ。
「ん、っふ……」
躰の奥に熱が灯る。下肢がじくじくと疼き出す。
自分が立って居るここが屋外で、冬空の下だなんて思えないほど、互いの熱気に包まれていた。
これをどうにか振り切らねばならない。
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