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ActⅠ Scene 8 : Ballan Do Godfree ④

 乾いた口内を潤すために唾を送り込もうと喉を動かせば、胃から口内へと酸っぱい胃液が込み上げてくる。  通常の屋敷でなら防災用に使われる、調理室の床に埋め込まれたハッチを開け、大人の男一人分入れるくらいしかない狭い階段を下りた先の地下室は人々の喧噪が遮断してくれる。静寂が広がるばかりだ。  階段を下りて行けば行くほど、冷ややかな空気が帯びてくる。  途中、倉庫やワインセラーがある中、それらに目も暮れず、最奥の部屋へと進んだ。  ここはオーナー専用の部屋だ。  スタッフの誰も入れないように言って聞かせている。  なにせこの部屋には椅子やテーブルの他にクリフォードの寝床である黒い柩。棚にはが入ったパックが並んでいた。  こうしている間にも、過去の鮮烈な記憶が蘇ってくる。  九年前の出来事が過ぎれば、もう立ってはいられない。  クリフォードは室内にあるオフィスチェアにどっかりと腰を下ろす。片手で顔を覆えば、脂汗がじっとりと滲んでいた。  青ざめた女性の首筋に突き立てられた牙。  鮮血に染まった牙を抜き取り、にたりと笑う彼の姿。  過去に起きたおぞましい出来事が記憶として鮮明に残っていて、今でも目蓋の裏にこびりついて離れない。  腰まである波打つブロンドに、体内に駆け回るアドレナリンで開ききった瞳孔。興奮状態の血走った目。血に飢えた鋭い牙を持つ彼の名は、バラン・ド・ゴドフリー。  彼は最も凶悪で強力な力を持った淫魔の(インキュバス)ヴァンパイアだ。

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