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ActⅠ Scene 8 : Ballan Do Godfree ⑤

 白骨化の遺体は体内に廻る血液のすべてを吸い尽くした結果だった。通常のヴァンパイアなら、ほんの少しでも欲望を満たせば必ず理性が働く。たとえ食事中であっても人の血液をすべて奪うことはない。しかし淫魔は違う。  淫魔は血液を好み、その為なら理性さえもかなぐり捨て去ることができる最も獰猛で最も破滅的な化け物だった。  そして、クリフォードも――。淫魔ほどではないが同族には変わりない。  けれどもクリフォードは彼とは違う道を選んだ。  政府直属のヴァンパイア・ハンターとなり、人知れず闇に暗躍し、人を傷つける異人種(アンオーディナリー)と戦っていた。  九年前。  クリフォードは人々を脅かす危険因子であるバランの存在を知り、彼を葬り去るべく動いたのだが――。  クリフォードはヴァンパイアの中でもまだ若く、自分をヴァンパイアに変えた父親は失踪していた。おかげで力の使い方を教えてくれる者もいなかった。手探り状態で力の使い方を学んでいたあの頃。中途半端な力ではバランに打ち勝つことができず、彼女シャーリーン・ゲリーを助けられなかった。未熟さゆえにみすみす牙の餌食になるところを眺めるしかできなかった……。  淫魔のヴァンパイアに歯が立たなかったあの頃――。当時を思い出すだけでもおぞましい。九年の月日が経つ今でも悪夢として見るくらいに忘れられない出来事として胸に深く刻みつけられていた。  白骨化遺体となった彼女が発見された当時、人々は生活に楽しみを得るべく騒ぎはじめた。淫魔のヴァンパイアもさすがに考えたのか、以来姿を消した。

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