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ActⅠ Scene 8 : Ballan Do Godfree ⑥

 ――しかし現在。  九年前と酷似した状態の遺体が今月に入って二人も発見された。  これはバランが戻って来たといって間違いないだろう。  喉がひりつく。  これは恐怖からなのか、それとも喉の渇きなのか。  取り敢えず気分を落ち着かせねばならない。  何か喉に流し込もうとするものの、化け物と化した自分が口にできるものは人の血液のみだ。  あの血に飢えた殺人鬼と同じものしか口にできないとは皮肉なものだ。  クリフォードは棚に置いてある病院からくすねた期限切れの古い献血パックをひとつ取り出した。  顔を(しか)めたまま、牙で乱暴にパックをこじ開けると一気に食道へと流し込む。  相変わらず不快だ。  赤く染まったそれは、百五十年を過ぎた今になっても慣れることはない。  それはどんなに躰が空腹を訴えていても同じだった。喉の奥には異物感が残り続けるばかりだ。 「これ、美味いわけがないよな」  いつの間にやって来たのだろう。ティムは古くなった献血パックを指差し、静かに首を振った。  クリフォードの食事は人間の血液だ。しかしながら牙を突き立て食事をする方法を好まなかった。その理由はしごく簡単だ。バランのようなおぞましい化け物になりたくなかったからだ。  ティムの目の前でクリフォードが血液を飲んでも彼が驚かないのは、クリフォードがヴァンパイアであることを十分話してあるからだ。

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