目蓋の裏が明るい。 　やがてカルヴィンの意識は覚醒を果たした。 　身体は未だ気怠い。それなのに、少しだけ気分がいいのはなぜだろうか。未だはっきりしない頭で考えながら上半身を起こせば、湿ったタオルが落ちてきた。 　衣服は真新しい白のチュニックとブラウンのスラックスを着ている。服のサイズはぴったりで、自分が着ていた当初のもののように思えるが、チュニックはシルクで作られており、スラックスはウール素材だ。当然子爵とは名ばかりのカルヴィンに手を出せるはずもない。 　どうやら自分は看病されていたらしい。 　しかしいったい誰に？ 　いよいよ今置かれている状況がわからなくなる。 　周囲を見渡せば、広い部屋に置いてある立派なグランドピアノに窓を塞ぐワイン色のカーテンはシルクだろうか。柔らかな襞を作り、ほんの少し空いた窓から入り込むそよ風が隙間を縫って揺らしている。それなのに少しも肌寒いと思わないのはベッドにと向き合うように設置されている暖炉があるからだ。暖炉ではぱちぱちと乾いた音を立て、橙色の炎が踊っていた。 　窓の隙間から太陽が見える。陽が傾いていることから察するに、時刻は午後三時くらいだろうか。夕方に差し掛かろうとしている。 　さて、ここはいったいどこだろうか。 　少なくとも自宅ではないことはたしかだ。 　なんたってここがベイジルの家なら四六時中暖炉を灯しっぱなしなんてそんな贅沢なことなんてできっこないし、ピアノも弾けるはずがないのだから。