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Act Ⅲ Scene 1 : fallen angel ②

 それに足下には黄蘗色(きはだいろ)のカーペットが敷いてあり、床は剥き出しではない。室内の雰囲気はとてもシンプルなのに、置かれているものが一般階級ではなかなか手に入れることができないものばかりだ。カルヴィンの知り合いにこんな贅沢をできる人間はいない。  時間ばかりが経過していく中、ここがどこなのかがますます判断がつかなくなってくる。  どうも昨夜の記憶がすっぽ抜けているのだ。  とにかく、この状況下から抜け出せば少しでも何かがわかるかもしれない。幸いにも靴がベッドの下に揃えられていた。  ドアノブを回し、押し開けるとドアは思いのほか軽い。容易に開いた。部屋を出るとすぐそこはとても広い廊下があった。どうやらカルヴィンがいた部屋は最奥だったらしい。廊下は前に向かって真っ直ぐ延びている。壁面には大小様々な美しい植物画が美術館の如く一定の間隔で飾られていた。絵画に導かれるようにして歩いていけば、年の頃なら十八歳くらいのエプロン姿の、メイドと出会した。やはり見知らぬメイドだ。  彼女は従僕の代わりに給仕をする客間女中(パーラーメイド)だ。小さなエプロンにフリルが付いた襟足。手荒れを隠すための手袋に袖口のカフス。一般的なメイドよりも華やかな制服だった。  その彼女は(いぶか)しげな眼差しをこれ見よがしに投げつけながら、それでも無礼はいけないと思ったらしい。カルヴィンとすれ違い様、頭を下げた。  綺麗な館内によほど裕福な屋敷でしか見ることのないパーラーメイド……。

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