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ActⅠ Scene 9 : ダンスパーティーの誘い。②

 シャーリーンもこのような気持ちだったのだろうか。  美しい彼に抗えず、快楽と好奇心に従い、命を落としたのだろうか。  そしてクリフォード・ウォルターはこうやって他人の欲望につけ込み、魅了した相手を組み敷いて命を奪い続けているに違いない。  そんなことがあってはならない。  カルヴィンの胸の奥に憎しみが宿る。  胃のむかつきをおぼえた。  どうやら彼を甘く見ていたようだ。  彼、クリフォード・ウォルターは一昨日前に出会ったカルヴィンの顔どころか、探偵だということさえ覚えていた。  シャーリーンの仇を討ちたいのにこれでは容易に近づけない。 「――っつ」  カルヴィンは目眩を起し、壁に押しつける。  クリフォードから与えられた疼きがまだ完全には躰から消えない。  太腿の間にある欲望は未だスラックスを押し上げているし、疼いている。  倒れ込むようにもたれた壁から熱が吸い取られていく……。  いくらか目を閉ざし、身動きせずにいると躰の疼きは若干だが退いていく……。  こうなったら堂々と調査してやる!  カルヴィンは拳を握り、固く決意した。  けれども相手はずっと用心深かった。  支配人らしきロマの男はカルヴィンを見つけるなりことごとく放り出してくる。  カルヴィンはすっかりお手上げだ。  悶々と過ごしていたそんなある日のことだ。 「やあ、カルヴィン。君、最近クリフォード・ウォルターについて調べているんだって?」  早朝、戸を叩く音が聞こえてドアを開ければ、例の如くマートがいた。

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