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ActⅠ Scene 9 : ダンスパーティーの誘い。③
彼は相変わらず自信家だ。新調したばかりのタータンチェックのラウンジスーツを着こなし、自慢の白い歯を剥き出しにして笑いかけてくる。
クリフォードのことで頭がいっぱいだ。今はそれどころではない。
カルヴィンはマートから逃れるためにドアを閉める。けれども彼の方が早かった。長い足をドアの隙間に挟み込み、待ったをかけてくる。
「つれないなあ、そんなにツンケンすることないだろう? 実は、来週の土曜日、クリスマスの日。ティアボルト伯爵の邸宅で開催される社交パーティーの招待状が届いてね。君が追っているクリフォード・ウォルターも現れるらしい情報を得たんだが――」
「えっ?」
途端だった。あんなに嫌悪していたマートの口から出た言葉に、カルヴィンはドアを閉めようとする手を止めた。
瞬きを繰り返すと、まじまじと彼を見た。
まさかマートの口からクリフォードの名前が出るとは思わなかったのだ。
「一週間前、ティアボルト伯爵のひとり娘のセレス嬢をならず者から助けたことがあって、その礼にと招待状をいただいたんだが、一緒にどうだい? ダーリン」
彼は赤い封蝋が押されている招待状をちらつかせながら白い歯を見せてにっこり笑っている。その顔はとても自身に満ち溢れていた。
たくましい筋肉質な肉体と短く刈り込まれたプラチナブロンド。
彼は女性に人気がある。
そのことを知っている彼は相手が誰だろうと虜にできると思い込んでいる愚か者だ。
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