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ActⅡ Scene 1 : 出遭い。①
むせ返るような人の熱気と甘ったるい香水の匂いが会場全体を覆っている。
中央には巨大なシャンデリアが飾られ、まるでこの場所そのものが光を放っているかのようだ。乱反射した光のつぶてが空間に散りばめられている。
幻想的な世界だと、カルヴィンは思った。
今夜の社交パーティーはどうやら特別なようで、貴婦人たちの熱気が伝わってくる。日常とは打って変わって頬が赤く色づいている。
それというのも、今社交界でとてつもない人気を誇っている、バラン・ド・ゴドフリーが出席するらしいのだ。
彼は貴族第一位の称号を手にしている公爵で、類い希な才能と美貌を持っていると世間ではもっぱらの噂だ。
貴婦人たちはそんなゴドフリー公爵のハートを射止めようと必死だ。皆、美しく着飾り、豊満な胸を強調させたドレスを身に纏う。
そんな中、カルヴィンは――といえば、胸元を控え目に開いたドレスを着ていた。胸元にシリコンを入れて淑女に扮装真っ直中だ。
地毛のブロンドと同じ色をした腰まである巻き髪のウィッグを付け、頭の上部でまとめ上げる。
ぎりぎりのラインまで胸元が開いたサテンの青いドレスはふんだんにレースが散りばめられている。
クリノリンで膨らみを見せている白のレース部分のスカートは小花模様の刺繍が施され、カルヴィンが動くたびにさらさらと揺れる。おかげで足下が見えにくく、すこぶる歩きにくい。加えて靴の踵に取り付けられたヒールは針金のように細い。
どうして世の中の女性は高いヒールで歩けているのだろう。
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