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ActⅡ Scene 1 : 出遭い。②
幸い、カルヴィンには無駄な贅肉はない。コルセットを着る必要は無いが、世の女性は体型を保つためにコルセットで引き締める必要がある。――とは、カルヴィンはひとつも思ってはいないが、少なくとも彼女たちは皆、そう思っているようだった。
コルセットで困難になる呼吸と躓きそうになる高いヒール。
優れたバランス感覚を持つ彼女たちこそ、実は勇ましい騎士なのかもしれないとカルヴィンは思った。
果たしてこんなおぼつかない足取りで、自分は女性だと偽り続けることができるだろうか。
これではクリフォードに正体がばれる恐れがある。なにせ彼は恐ろしい記憶力の持ち主だ。
さすが遣り手の実業家だけのことはある。カルヴィンがどこで会った人間なのかも覚えていたし、顔も職種も覚えていた。あの調子ではおそらく、彼は自分が経営しているクラブに大勢が出入りする客の名前と顔を余すことなく全員記憶しているに違いない。
そんな彼を欺くことは到底不可能にも思えてくる。
――ああ、膝が震える。ピンヒールをはいている足が今にもバランスを崩してしまいそうだ。
いくらか怯えていると、パートナー役のマートがワイングラスを差し出した。
彼は白のチュニックにワイン色のジレとジュストコール。スラックスを身に着けている。いかにもスポーツをしていそうな引き締まった躰はどんなに隠そうとも隠しきれない。
貴婦人たちの視線がジュストコールからはち切れんばかりのたくましい肉体美をしたマートに釘付けだ。
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