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ActⅡ Scene 1 : 出遭い。③

 今夜だけでルージュを引いた唇から甘いため息が零れているのを何度目にしたことか。彼は白い歯を見せてにっこり笑いかけてくる。 「さあ、騙されたと思ってこれを飲んでみて。緊張が解れるよ」  マートから高級そうな赤ワインが入ったグラスが差し出された。  カルヴィンは酒に弱い。アルコールは苦手だ。けれども今は彼の助言が正しいように思える。  とにかく、からからに乾いた口内を潤す必要があるし、緊張で胃から込み上げてくる酸っぱいものをどうにか押し戻したい。  カルヴィンは小刻みに震える手でマートからワイングラスを受け取った。 「ありがとう」  ひと口、ふた口とワインを喉に通していく。  もちろん、酒の類が苦手なカルヴィンはこの酸味の利いたこれが美味いとは思えない。しかしこの屋敷に出されたワインは飲みやすい気がする。  彼の手が腰に回っている。  慣れないピンヒールで転げそうになる躰を支えてくれるマートの手が不快だが、今は倒れ込まないことが何よりも重要だ。不快のあまりマートに毒づきそうになるカルヴィンは自分にそう言って聞かせていた。  この慣れない会場の空気もマートの存在も何もかもが居心地が悪い。口の中に酸っぱいものが広がるのを防ぐため、カルヴィンがいくらかグラスを傾けていると、ふいに鋭い視線を感じた。顔を上げれば――ああ、なんということだろう。クリフォード・ウォルターがこちらを見ている。  もう自分の正体が気づかれてしまったのだろうか。

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