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ActⅡ Scene 2 : beautiful ③

 たかがゴドフリー公爵とワルツを踊っただけなのに、こうも動揺する自分はおかしい。  カルヴィンは情けなさに唇を噛みしめる。 「待て待て。そんな顔色が優れない中で帰るのは危険だ。君が落ち着くまで隣にいてあげるから――」  マートは項垂れるように座るカルヴィンの隣に腰を下ろした。  彼の人差し指がカルヴィンの項をそっと撫でる。するとおかしなことに、マートに触れられることがあんなに不快だったカルヴィンの躰が反応した。彼のほんの少しの行動で熱を持ちはじめる。  躰が火照っていた。  マートは親指の腹で項を擦り続ける。そのたびに、カルヴィンの下腹部が熱を生み出していく……。 「マート、ぼくは――」  自分はいったいどうしてしまったというのだろう。  手元を見続ける視界が揺れる。  押し寄せてくる得体の知れない恐怖からなんとか気持ちを落ち着かせるためにひとりになり、この庭へやって来たというのに、今は気持ちを落ち着かせることが不可能だと思える。 「ねぇ、ぼくといると何かを感じないかい?」  そっと囁くように告げた彼の吐息はカルヴィンの耳孔に触れる。  するとカルヴィンの下肢がひどく疼きはじめていることに気が付いた。  彼の大きな手がクリノリンをくぐり抜け、太腿を下着越しに直接触れた。途端にカルヴィンの躰がびくんと跳ねた。 「ダーリン」  ダーリンなんて呼ばれても不快しかない。  それなのに、なぜだろう。ゴドフリー公爵と会ってからの自分は何かがおかしい。

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