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ActⅡ Scene 4 : 試される良心。①
「ふ……」
口づけの合間に悩ましげな声がルージュを引いた唇からあがる。
伸びてきた彼の細い腕が首に巻き付いた。
履き慣れていない高いヒールで背伸びをして、必死にクリフォードの唇を貪る彼の姿が可愛らしい。
どうやら彼はアルコールに弱いらしい。うっとりと目を閉ざし、口づけを強請る彼の頬が朱に染まっている。彼は無意識にもこうやって男を惑わす術を持っていた。
すっかり彼のペースに巻き込まれてしまったクリフォードは、華奢な腰を引き寄せ、逃がすことのないよう腕の中に閉じ込める。
歯列をなぞり、舌を絡めて唇を吸い上げる。
しかしこれだけでは足りない。
それはクリフォードだけではなかったようだ。
「んぅ……」
どちらからともなく口角を変えれば、よりいっそう深い口づけになる。飽きることなく互いの舌を絡め、貪り合った。
彼を求めて昂ぶるクリフォードの欲望がスラックスを押し上げている。熱を宿した下肢がドレスに触れた。
彼もまた、クリフォードと同じ状態になっているのだろう。より腰を揺らして惑的してくる。けれども彼が着ているのはスラックスではなくドレスだった。それもドレスの下に、いっそうの広がりを見せるクリノリンを身に着けて――。
互いの熱が周囲一体を覆っている。激しい情熱が二人を包み込んでいた。それなのに、彼の躰が反応している証しを見ることができないとは……。
このふっくらとしたドレスを見せるクリノリンが忌々しい。
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