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ActⅡ Scene 4 : 試される良心。②

 余すことなく、この青年のすべてを見てみたいのに、どうにもできないもどかしさがクリフォードを襲う。  薄い唇から狂おしい獣のような呻き声が上がった。  クリノリンも偽造した胸も邪魔だ。おそらくカルヴィンは自分がこの社交パーティーに参加することを知り、変装までしてのこのこやって来たのだろう。  カルヴィン・ゲリーは、殺人犯が誰であるかも何者かも知らない。クリフォードこそが世間を騒がしている連続殺人犯だと思い込んでいる。  しかしその実は違う。  バラン・ド・ゴドフリー。  奴こそがこの連続殺人の犯人である。  とはいえ、バランは一般人種(オーディナリー)ではなく、特異種(アンオーディナリー)、ヴァンパイアだ。  それも淫魔(インキュバス)である。  ただでさえヴァンパイアは人間離れした相手なのに、加えて淫魔はさらにその上をいく凶悪な相手だ。  この青年はそれを知らず、のこのこと一般人種のパートナーを連れてやって来た。  カルヴィンはいかに愚かでいかに危うい賭をしたのかを知らない。  あの一般人種がこの青年を守れるはずもないのだ。もし、あの男が淫魔のヴァンパイアに太刀打ちできるのなら見てみたいものだ。  しかも、である。  あの男は最悪だ。媚薬入りのワインをこの青年に飲ませ、ふたりきりになったところで快楽を躰に刻み込ませようとしたのだ。  そうやってあれは送り狼にでもなるつもりだったらしい。この可愛らしい彼を組み敷いて――。自分のものにしようとしたのだろう。  しかも、媚薬に使われる催淫薬の中には死に至らせるほどの副作用だってあるものも存在する。

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