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ActⅡ Scene 4 : 試される良心。④

 奴がカルヴィンを見る目は明らかに獲物を見つけた目立った。  そして今、クリフォードも彼に惹きつけられている。  ヴァンパイアの本能が、彼を欲っしている。  九年前の当時。たしかに歯に噛み微笑む彼女は可愛らしいと思った。しかし、彼女を欲するほどの感情は芽生えなかった。ヴァンパイアになって長い年月を生きてきたクリフォードがこれほどまでに肉体と血液を欲したのはこの青年が初めてだ。  ああ、カルヴィンが欲しい。  クリフォードは欲望に支配されていく自分を叱咤し、腹の底から唸り声を上げながら魅惑的な彼から離れた。 「――あ……」  距離が生まれた彼の赤い唇は甘い声で抗議してくる。  悩ましげな声もクリフォードを刺激してくるからたまらない。  ぴったりと張り付くように抱き合っていた躰から生まれた互いの熱が徐々に消えていくのがわかる。  ほんの少し躰を離せば、クリフォードの口づけで腰が砕けたのか、カルヴィンの躰が傾く。地面に倒れ込む寸前、クリフォードは華奢な躰を横抱きにすると近くに停めてあった馬車に乗り込んだ。 「カランド通り3ー45まで頼む」  クリフォードが臨時で雇った馭者に伝えると、馬の蹄が舗装されている石畳を叩く。馬車はところどころに転がる小石に揺らされながら夜道を走り出す。  そうこうしている間にも、カルヴィンの滑らかな頬がクリフォードの胸板をなぞる。  彼はどうやら暇を持て余しているらしい。手を伸ばし、クリフォードのジュストコールをくぐり抜けた。ジレ越しに細い指が弧を描く。

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