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ActⅡ Scene 4 : 試される良心。⑥

「さあ、着いたよ。君の家の前だ」 「……ん」  細い腕がクリフォードの首に巻き付く。  ――まだ離れたくない。まるで抗議をするかのように身を寄せてくるからたまらない。 「玄関のドアを開けたいんだが――」  クリフォードはヴァンパイアだ。霧と化してこの家に侵入することなんて容易にできる。しかし自分の腕の中にはカルヴィンがいて、しかも離れたがらない。  果たしてどうすればいいのだろう。  ヴァンパイアになって百年を越える月日を生きているというのに、このような状況に陥ったのは初めてで正直困り果ててしまう。  幸い今は深夜で人通りはまったくない。けれどもいつまでもこうしてはいられない。このような姿を見られれば、どうなることか。  ――自分はいい。特異種として生きているし、しかも今のこの時代ではあまり良い呼び名で人々に噂されてはいないから。しかし彼には明るい将来があって、まかり間違えばこの先の未来に影を差してしまう恐れがある。  なにせこの世界では同性愛者を認められてはいないのだから――……。  それにゴシップ好きの彼らが今のカルヴィンの格好を見ればますます喜ぶばかりだ。  まったくどうして彼はこんなに可愛らしいのだろう。  そうでなければ、この場に下ろして簡単に去っていけるのに!!  腕の中にいる彼はそんなクリフォードの悩みさえも知らず、胸板にぐったりと身を寄せて眠りかけている。 「カルヴィン、カルヴィン……」  躰を揺すっても抗議の声ばかりが弾かれる。

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