90 / 275

ActⅡ Scene 4 : 試される良心。⑦

「カルヴィン――マイラブ、起きてくれ」 「――ん」  腕の中にいる彼をもう一度揺すれば、ほんの少し翡翠の目が開いた。 「ラブ、家の鍵をくれないか?」  そっと耳元で囁くようにクリフォードが尋ねると、カルヴィンは胸元から小さな鍵を寄越した。  胸元からほんの少し見える彼の素肌にクリフォードはまたもや呻き声を上げた。  本当に自分はどうすればいいのだろうか。  腕の中で大人しく身を寄せている彼からどうにか鍵を受け取ることに成功したクリフォードは、差し込み口に当てる。ほどなくして軋む音と共にドアが開いた。  室内は屋外と同じように冷え切っていた。  窓は開放されっぱなしでいたずらに風が吹き荒ぶ。  なにせこの時代の人々はペストやコレラといった感染症を恐れていた。  常に喚起を促され、室内は常に新鮮な空気を取り入れる。どんなに裕福な家庭であっても暖炉は非効率的だと使用も控えている。  たしかに、感染症は恐ろしいものだが、工場から垂れ流しの汚染された空気や木炭を燃やした時に発生する二酸化炭素が問題だとは考えなかった。そして汚染された水や、その水で育った食物を摂取するのはさらに危険だ。  だからこそ、クリフォードは山奥の山地で営む農家と契約し、野菜と山の水を使っていたのだが、残念なことに殆どの一般人種は水や空気が汚染されていることを知らない。――いや、そうではない。知っていても、この根深い身分制度のおかげで金がなくてにっちもさっちもいかないのが現状だ。

ともだちにシェアしよう!