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ActⅡ Scene 5 : reunion ⑦
今の自分はまさに男娼にでもなった気分だ。続けざまにマートに大声でさらにまくし立てられれば、胸焼けがさらにひどくなる。
マートの口から次々と酷い言葉で罵倒を浴びせかけられ、カルヴィンは目をつむる。
明日のゴシップ誌は自分の話題で一面を飾られるのだろうか。そしてほんの少し前に起きた、かの有名な劇作家オスカー・ワイルドのように同性愛者で訴えられ、罰せられるかもしれない。
「彼は誰とも寝ていない」
ひどく打ちのめされていると、思ってもみなかった人物によって助けられた。
突然降ってきた低い声はまるで地響きのようだ。みぞおちに響く。
腰まであるブロンドに高い背。整った双眸。
一夜明け、日が昇っている今、あらためて彼を目にしても凍えるような冷たい印象は変わらない。バラン・ド・ゴドフリー公爵だ。
思わぬ人物によって救いの手を差し伸べられ、カルヴィンが唖然としていると、凍てついた視線がマートを射貫いていた。突如として現れた予期せぬ人物の登場はそれ以上に繰り出されようとするマートの発言を奪った。
カルヴィンの傍らで固まっているマートを余所に、彼が羽織っていたジャケットをカルヴィンの両肩にそっと掛けた。それからカルヴィンの手を引き、停めてある馬車に向かって歩き出す。
「あ、あの……」
頭が混乱しすぎてもう何を言えばいいのかわからない。
カルヴィンが顔を上げると、彼は静かに微笑んだ。
《Act Ⅱ Scene 5 : reunion /完》
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