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ActⅠ Scene 2 : 隣人はエリート探偵。③

 カルヴィンは生まれつき、ひげが薄く、おかげでほんの少し剃ってしまえば最後。すべての人々がそうとは限らないが、同性愛者に見られることも多々あった。  ただでさえ中性的な顔立ちや躰の成り立ちがコンプレックスなのに、マートからこうして口説かれるからたまらない。  当然、カルヴィンは同性愛者でもなんでもない。生まれてこの方、同性に惹かれたことなんてこれっぽっちもないし、そう言う目で見られても嫌悪感しかない。だから男らしいマートから、まるで女性でも見るように色目を使われれば余計、自分が惨めになる。  カルヴィンは自分の容姿が好きではなかった。  ――とはいえ、カルヴィンが男性からこうやって色目を使われるのは何もこれが初めてではない。  もちろん、政府は同性愛を認めておらず、罰則がある。マートは父親が法廷弁護士だからなのか、罰則さえも気にしていない様子だ。マートほど公に口説かれることはないが、男性からは合図を送られ、性交渉を求められることはよくあった。  その性交渉を求める合図というのは、  ベストの脇の下に親指を入れ、薬指の先で胸を叩く。  たとえば、今マートがしているこの合図のように――。 「ああ、カルヴィン。いい加減頷いてくれないか? 君がほしいんだ。ぼくの全財産を君に捧げよう。だからぼくのものになってほしい」  マートは熱っぽい視線を送ってくる。  まるで全身にまとわりつくかのような、ねっとりとした囁く声が彼の分厚い唇から放たれた。

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