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ActⅠ Scene 2 : 隣人はエリート探偵。④
彼は自分がどれだけハンサムで有能な男性であるかを知っていた。
たとえ相手が同性であっても、落とせない人間はいないと考えているに違いない。
しかし、カルヴィンはマートがどんなに強欲な男性なのかを知っている。おそらく彼のことだ。カルヴィンがマートのものになると承諾し、全財産を手にしたその瞬間、彼はカルヴィンを支配するのだ。文字どおり身も、心もすべて――。
本人は甘い言葉で誘惑しているつもりらしいが魂胆は見え見えだ。
いったい誰がこんな傲慢で利己的な男に囲われるものか!
カルヴィンはマートを睨みつける。
それでもマートは食い下がった。彼の太い腕がカルヴィンの華奢な腰を包み込む。
「放っ!」
マートから逃れようと分厚い胸板を押しても、自分の軟弱な細い腕ではびくともしない。
「カルヴィン……」
そうこうしている間にも、もう片方の腕で後頭部を固定されてしまう。
カルヴィンの名を呼ぶ彼の吐息が頬を掠めた。彼の息遣いが聞こえてくるほど間近に迫っているのだと思えば悪寒が走る。
「やっ、いやだ……」
顔を逸らし、迫る彼の唇を拒むために両手で壁を作って遮った。マートの両腕にいっそう力が込められる。カルヴィンがなんとか抵抗を計っていると――タイミングよく道路を挟んだところにある屋敷の呼び鈴が鳴った。
どうやら訪問者は困り事があるようだ。マートの事務所の木戸を叩く音が聞こえてくる。
それでもマートは訪問者に無視を決め込み、カルヴィンに迫るが、呼び鈴は二度三度と続けざまに鳴らされる。
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