40 / 275

ActⅠ Scene 6 : 見慣れない客。⑦

 翡翠の目に涙が溜まっているのが見えた時、腹の底から怒りが込み上げてくるのを感じた。  まったく、とんだ愚か者だ。  あの客には金回りも良いことを理由に入店を許していたがどうやらここらが潮時のようだ。  金さえあれば何でもできると思うのならとんだ思い違いだ。ここはクリフォードの縄張りであり、クリフォードこそが掟だ。一般常識がまかり通る場所ではない。  どうやらあの男にはそれを教える必要があるようだ。  クリフォードは鼻を鳴らした。 「さあ来い! おれが直々にベッドでの過ごし方をたっぷり教えてやる!」 「い、いやだっ!」  青年の唇が戦慄(わなな)き、声を上げる。  首を振り、青年の目に込み上げていた涙が四方八方に散っていく……。  男は嫌がる彼を強引に手首を掴み上げると、華奢な躰をまるで自分の所有物であるかのようにして、腰に腕を回し、乱暴な素振りで引き摺っていく。 「いやだっ、離せっ! 離してっ!!」  彼の悲鳴を耳にした時だ。クリフォードは我慢の限界に達した。拳をきつく握り締め、今や諍いの中心になっているバーカウンターへと大股で歩いていく。 「ならばお前が出て行け。今すぐに、だ」  《Scene 6 : 見慣れない客。/完》

ともだちにシェアしよう!