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ActⅠ Scene 8 : Ballan Do Godfree ⑩

「しかし九年前に起きた騒動の主犯格のバランがまた戻って来ているとはね」  クリフォードが様々な思いを過ぎらせていると、ティムの声で我に返った。 「いったいなぜ今になって戻って来たんだ? 本当に奴の仕業なのか?」 「奴にとってこの地に目欲しい何かがあるのか。詳しいことはわからないが、バランに間違いない。奴は公爵の地位に上がり、ことごとくの女性の命を奪っている」 「奴の居場所は突き止めたんだろう? だったらさっさとこんな危ない仕事終わらせよう」 「――いや、それは無理だ」  クリフォードは静かに首を振った。 「なぜだ? 奴の居場所もわかったんだ。相手がどんなに凶悪なヴァンパイアでも隙を突けばきっと葬り去れるだろう? それに君は九件前よりずっと強くなった。あの頃のようにはいかないはずだ」 「――相手は公爵だ。奴を倒せば公爵という地位の恩恵を受けている民衆が苦しむことになる。それに淫魔のヴァンパイアは強力で一筋縄ではいかない。何か打開策を考えなければならない。とはいえ、このまま指を咥えて待っていれば次の犠牲者が出る」  クリフォードがいるこの地では未だに身分という差別があった。  労働者階級、中流階級、上流階級という大まかな身分の他にも、上流階級にはさらに貴族の世襲的階級を示す爵位というものがあり、それぞれ五段階に分かれている。五等爵の第五位である男爵、第四位である子爵、クリフォードが位置する第三位の伯爵、第二位の侯爵、そして第一位の公爵だ。  公爵ともなれば当然扱う土地の大きさも違う。人々を雇用し、養う義務だってある。そのぶん、彼を失えば貧困に苦しむ人々が増えてしまう。容易に手出しはできない。

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