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ActⅡ Scene 3 : 闇に浮かぶ影。②
青年が純潔なのは発せられる匂いですぐにわかった。爽やかな血液の香りは何より新鮮で美味い。
それに加えて、彼女の血液は甘やかで馨しい。今まで味わったことのなかったものだった。
あれがまた味わえる。思いを馳せただけで腹が空く。しかし、今度は前回のようなヘマはしない。
この長すぎる一生分すべて、あの血液を食し続けることにしよう。ついでに青年を自分好みの躰に変えてしまえばいい。バランに忠実な僕として、肉体のみではなく心さえも捕らえてしまおう。
そうすれば、食欲も性欲も――何もかもこれから飽くことのない生活がおくれる。
丁度退屈していたところだ。なにせバランはヴァンパイアの中でも最強最悪として恐れられる淫魔 という種族だ。どんな相手にも負けたことはない。加えて新しい力も手に入れた。これで教会や政府の奴らも太刀打ちできまい。
あの特異種のぼうやと狩りを競うのも今までにない趣向だ。なかなか愉しそうではないか。丁度良い暇つぶしになる。
一般人種を落とすゲームだ。
しかしこのゲームの結末は見えている。
あの青年もバランの虜になるのは時間の問題だ。
もっとも美しく、魅了することに長けている淫魔ヴァンパイアは他の特異種よりもずっと一般人種を虜にすることが可能だ。ひと目、バランを目にしただけで彼らは目を眩ませ、簡単に落ちてしまう。
とはいえ、今回の標的はなかなか手強い。彼はバランの中にある闇を察知したのだろう。翡翠の目に恐怖を宿していた。その証拠に、彼はバランに臆して逃げてしまった。
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