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ActⅡ Scene 6 : 底知れない恐怖。④

 今朝方よりはマシになったが、それでも躰はまだ火照っているし、気怠さもある。口の中は酸っぱいものが広がっていて、気分だって悪い。正直いうと彼が良かれと思ってオーダーしてくれたキッシュは口にできそうにない。 「なるほど。だから昨夜の社交界に潜入したのか」 「はい」  ゴドフリー公爵の尋問にも似た問いに、半ば霞む頭で返事をする。 「悪いことは言わない。今すぐにでも彼から手を引いた方が良い。実はぼくは政府に雇われた者でね、君が察しているとおり、ぼくもクリフォード・ウォルターが犯人だとにらんでいる。彼は――」  そこまで言うと、ゴドフリー公爵は言いにくそうに一度口を閉ざし、ややあってふたたび口を開いた。 「君は――その、信じられないかもしれないが、彼はヴァンパイアなんだ。彼はあまりにも危険すぎる」  さて、彼は何を口にしただろう。  ゴドフリー公爵の口から出た単語はあまりにも現実離れしたものだった。  カルヴィンはこの時ばかりは体調が悪いということを忘れられた。  果たしてこれは冗談なのか。  表情を窺うものの、引き結ばれた唇と真剣な眼差しは崩れない。  彼の表情からは冗談を言っているふうには見えなかった。  クリフォード・ウォルターがヴァンパイアだなんて……。  たしかに、白骨化した遺体なんて一週間も経たずにできる芸当ではない。  それに彼の容姿はこの世界から逸脱している。相手が男性であっても女性であっても魅了されてしまう。悪魔を信じていないカルヴィンでさえも堕天使という存在がいるのかもしれないと思えるほど、あまりにも美しく、洗礼されている。

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