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ActⅡ Scene 6 : 底知れない恐怖。⑤
それでも、ゴドフリー公爵の言葉はあまりにも現実味がない。
ああ、だけど……。
心臓が早鐘を打っているのがわかる。
カルヴィンは目を閉ざし、動揺から目を背けた。
「危険なのはわかっています。でも、姉の命を奪った相手をどうしてもこの手で捕まえたいんです」
膝の上に置いている拳に力が入る。
思いもしなかった突飛な単語を聞かされたのだ。握りしめた拳が震えてしまうのは仕方のないことだ。
それはとても不気味だった。今だって躰の芯は火照っているはずなのに、全身は冷たく凍えるような感覚がある。
「君が心配なんだよ」
ゴドフリー公爵の手が伸びてくる。カルヴィンの手をそっと包み込んだ。
ただでさえ冷たく凍える躰は、触れられたそこからさらに冷たくなっていくようだ。このカフェは暖炉もあってあたたかいはずなのに、絶対零度の氷河にでもいるような凍てついた寒さがカルヴィンを襲う。
彼の手首がカルヴィンの渦巻く欲望に触れた。
これはけっして故意的ではない。
動揺するカルヴィンを元気づけるために手を伸ばしただけ。頭では理解しているのに、身構えてしまうのはきっと昨夜と今朝の立て続けにマートから言い寄られたせいだ。
「カルヴィン……」
彼の唇から滑り出る。親しみを込めてファーストネームで呼ばれても、少しも楽にはならない。それどころかずっと恐怖が押し寄せてくる。
より強く手を握られ、彼の手首に接触した欲望に摩擦が起こる。
カルヴィンの躰の状態をゴドフリー公爵はわかっているのか。
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