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ActⅡ Scene 6 : 底知れない恐怖。⑥

 それとも、カルヴィンを宥めるのに必死でカルヴィンの状態に気づいていないのか。  凍てつく寒さがあるのに、太腿の間で息づく欲望はもっと触れてほしいと懇願している。  ほんの少し身を捩れば赤い痕がある右胸の飾りがチュニックに擦れた。そこから躰じゅうを甘い余韻が広がっていく……。  自分の躰はいったいどうしてしまったのだろう。  もっと触れてほしいと願う反面、この場から去りたいとさえ思う。  わけのわからない衝動。 「お、お気持ちは嬉しいですが、ぼくなら大丈夫です。あの、スーツ代は必ずお返しします」  とにかく、ゴドフリー公爵の側は落ち着かない。彼といると、まるで自分が飢えた肉食獣に睨まれた子牛のように思えてくる。一刻も早く、どうにかしてここから去りたい。カルヴィンは勢いよく立ち上がると、失礼だとわかっていても逃げずにはいられなかった。  踵を返し、できるだけ早足でその場を去る。カフェを出ると、無意識に走り出していた。  《ActⅡ Scene 6 : 底知れない恐怖。/完》

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