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ActⅡ Scene 7 : irritant ②
しかし、それとは反対のこともできる。
彼女の躰が床と平行になる寸前、バランは手を伸ばした。特異種として持ち得ている優れたバランス感覚で見事、宙に舞う華奢な躰を受け止めた。
憂いのある微笑を浮かべて甘い言葉のひとつでもかけてやる。すると彼女のそばかすが散っている頬は見る間に薔薇色へと変わった。赤い唇からは甘いため息が零れ落ちる。
そう、ほとんどの一般人種がこんなふうになるのだが、彼は違う。
――とはいえ、時間を掛けてゆっくり手懐けていくのも悪くはないかもしれない。
そうしてカルヴィン・ゲリーを懐柔し、目に見えない鎖で雁字搦めに縛ってしまえば永遠に美味い食料に有り付けるというものだ。
どうやら彼を甘く見ていたらしい。プランを書き換える必要がありそうだ。
幸いなのは、ヴァンパイアのぼうやが彼を食材にしなかったことだ。昨夜、カルヴィンと姿を消したからどうかとも思ったがこちらが懸念することのひとつも起こらなかったようだ。
右胸に痕があったがこれといって然したる問題もなさそうだ。血液の匂いも新鮮で甘い。間違いなく彼の躰はバージンのままだ。
カルヴィンがあのぼうやになびかないよう、ヴァンパイアであることも話したし、先手は打った。これでカルヴィンはことごとくあのぼうやを警戒するだろう。
なにせ自分は新しい力を得たおかげでこうして太陽の昇る時間帯でも易々と動き回ることが可能になった。
さらに社交界での評判も良い。もし、あのぼうやがカルヴィンに自分の正体について妙なことを吹き込もうとも彼が自分を信用するのも時間の問題だ。
バランは怒りを静めると気を取り直した。
《ActⅡ Scene 7 : irritant/完》
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