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ActⅡ Scene 9 : have an interest ③

 一般人種が特異種に立ち向かうなんて愚かなことだ。それなのに、こんな状態では逃げることさえもできない。自分の命を引き替えにしてまで肉親を殺めた相手を捕まえたいのか。  呆れるものの、無理もない話だとクリフォードは思った。  なにせ昨夜はに媚薬を飲まされ、翌日経った今日も躰の機能のほとんどが麻痺している状態のままなのかもしれない。況してや、彼の調理台近辺にあった食物はといえば、ただそれだけだった。あれでは消耗した体力を回復することさえままならない。  クリフォードは小さく頭を振ると、力なく倒れているカルヴィンをそっと横抱きにして従業員用の勝手口から屋敷の中に入った。  二階の突き当たりにある一際大きな部屋はほとんどと言って良いほど使用していないクリフォードの自室だ。  二十帖はあるこの部屋には昔、クリフォードがよく弾いていたグランドピアノが置いてある。  大きな窓の先にはバルコニーがあって陽当たりも良好だ。ここは一般人種に自分が特異種であることを勘繰(かんぐ)られないよう、ダミーとして造ったのだが、まさかこういう時に役立つとは思いもしなかった。  一般人種には地下室の寝床を披露するわけにはいかない。ここならば従業員も容易に出入りできない。クリフォードはカルヴィンをこの部屋で寝かせることにした。  その彼はクリフォードの腕の中にいる。額に脂汗を滲ませ、苦しそうに浅い呼吸を繰り返している。ゆっくりとキングサイズのベッドに運び上げた。

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