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Act Ⅲ Scene 1 : fallen angel ⑧

 会話のひとつさえ交わしたことがない赤の他人である彼がカルヴィンの心配をするとは思いも寄らず、ああ、と小さく何度も頷いた。  では彼が自分をあの寝室に運び込んでくれたのだろうか。 「ずっといいです……あのもしかして貴方がぼくを看病してくださったんですか?」 「……いや。まあそんなところかな。それよりも何か食べられそうかい?」  男は小さく首を振り、カルヴィンの質問に曖昧に答えると続けて訊ねた。 「――え?」 「こっちにおいで」  訊ねられたにもかかわらず、答える隙も与えられぬまま支配人に腕を引っ張られればあっという間に地下室を通り過ぎていく。まさかこの地階にクリフォードがいるかどうかを確認するために来ましたとは言えないカルヴィンは、最奥の部屋を視界の端で捉えながら、後ろ髪をひかれる思いで一気に階段を抜けていく……。  一階に辿り着いたかと思えば、支配人は例の料理長と思しき男に何やら短い指示を出すとカルヴィンが目覚めた二階の寝室に逆戻りだ。 「あの……」 「失礼します」  カルヴィンがベッドに戻され、支配人に訊ねようと口を開けば、すぐさまドアをノックする音がした。メイドが何やらスープ皿をトレーに乗せてやって来たのだ。 「どうぞ」  支配人から入室の許可を得たメイドは手にしていたトレーをナイトテーブルに置き、慣れた手つきでスプーンと小皿を並べる。スープ皿からは食欲をそそる優しい匂いが広がる湯気と共に空気中に広がっている……。

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