135 / 275

Act Ⅲ Scene 1 : fallen angel ⑩

 口に放り込めばすぐに溶けていく野菜と豆は、おそらく煮るのにとても長い時間を要しただろう。味付けはとてもシンプルな塩味で、昨日から食事をしていなかったカルヴィンの胃がもたれることもなかった。この食事を作ってくれた人はとても心優しい穏やかな人物に違いない。  満たされた胃袋のおかげで張り詰めていた気分がほんの少し緩まる。  カルヴィンは食事を終えると、支配人のティムとの約束を果たすため、呼び鈴を鳴らした。  ()くして二人は馬車に乗り込みんだ。四人用の馬車の中はとても快適で、くつろげるのに充分な広さがあった。それに加えてティムの気遣いはとても紳士的で、おそらくはカルヴィンが食事をするまでずっと暖炉の中であたためてくれていたのだろう、石を置いてくれた。そればかりではない。ブランケットを膝にかけてくれる始末だ。自分は男だし況してや客人でもない。だからここまでしてくれる義理はないのだと話せば、病み上がりだしまた熱をぶり返しては困るからと、彼は首を縦に振らなかった。  軽快に走る馬の蹄の音と馬車の心地好い揺れがカルヴィンをまどろみへと誘う。果たして彼は自分をどこに連れて行こうというのだろうか。そう思いながらもうつらうつらとしていると、見慣れた景色が窓に流れていく……。  そうして二人がやって来た先は、小さな墓地だった。  天に向かって自由気ままに伸びている裸の枝々には数羽の鴉が止まっている。青々とした芝生に広がる中、大小様々な墓標が並んでいる。

ともだちにシェアしよう!