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Act Ⅲ Scene 2 : a culprit ①

 果たして本当にクリフォード・ウォルター伯爵が連続殺人の犯人なのだろうか。  支配人、ティムの証言といい、カルヴィンには到底彼が犯人だとは思えなくなっていた。  なにより、彼の屋敷で働く人々は皆、楽しげだった。けっして虐げられている様子は感じられず、声を上げて笑い合い、仕事をしていたのだ。  そして――。  極め付けは昨日、ティムに連れられて屋敷に戻った時、クリフォードが焦燥から安堵に変化したあの表情。あれは血も涙もない快楽殺人を犯す仕草ではない。  現に昨夜だって。クリフォードはカルヴィンが眠るまでずっと付き添ってくれたのだ。  もうカルヴィンひとりでは判断がつかない。  そこで今朝、誰もが眠りに就いている早朝にこっそりクリフォードの屋敷から抜け出したカルヴィンは自宅へ戻り、着替えを済ませるとゴドフリー公爵の屋敷に訪れることにした。  なにせ彼は政府に雇われたハンターだ。彼ならばクリフォードが本当にヴァンパイアで快楽殺人の犯人かどうかについて何かしらの判断材料を持っていると考えたからである。  カルヴィンは子爵だ。しかし無駄遣いするほどの金子は一切持ちあわせていない。当然ゴドフリー公爵の屋敷まで徒歩で向かうしかない。  クリフォードの屋敷を出たのは空が白じむ頃。まだ太陽が顔を出していなかったにもかかわらず、今は眩しいほどの輝きが真上にあった。  時刻は昼食時になるだろう。しかしゴドフリー公爵はとても懐が広い。カルヴィンが何の連絡も寄越さず突然顔を出しても嫌な顔ひとつもせず、客間に招き入れてくれた。

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