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Act Ⅲ Scene 1 : fallen angel ⑮

 それなのに、なぜだろう。力強い腕の力とムスクの香りが……いや違う。優しいこの香りはオークモスだ。クリフォードのすべてが安心させてくれる。 「ティム、これはどういうことだ!」 「申し訳ございません、伯爵。彼を連れ出しました」  クリフォードが怒鳴った相手はカルヴィンではなく、支配人だった。カルヴィンを包む優しい腕とは対照的に、呻るような低い声がティムを責める。  主が従者を叱りつける最中、けれどもカルヴィンの胸の鼓動は治まらず、それどころではない。 「ティム。無理はさせるなとあれほど……この子は肺炎を起こす寸前だったんだぞ! ほらみなさい。こんなに躰が冷えているじゃないか!!」  やはりクリフォードが自分を看てくれていたのだろうか。訊ねたいのに訊ねられないのはカルヴィンを包み込む腕があまりにも強くて胸を締め付けるからだ。オークモスの優しい香りが鼻孔をくすぐる。 「とにかく、まだ本調子じゃないんだ。すぐに休みなさい」  クリフォードはティムへの説教を中断して腕の中にいるカルヴィンに視線を落とした。彼の口調は気のせいだろうか。ティムと会話している時よりもずっと優しく、柔らかく感じるのは――……。 「あのっ! ぼくなら平気です。家に……」  やっとのことで発言し、今から帰ると言いかける。けれどもクリフォードは静かに首を振った。 「いいや、顔色がまだよくない。君はもう二、三日ここにいるべきだ」  ぴしゃりと言ってのけると、カルヴィンを横抱きにして、客間へ戻した。  困惑するカルヴィンはただただ、彼の腕の中で押し黙るしかなかったのはいうまでもない。 《Act Ⅲ Scene 1:fallen angel /完》

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