139 / 275

Act Ⅲ Scene 1 : fallen angel ⑭

 ――ティムに連れられ、来た時と同じように馬車に乗り、クリフォードの屋敷に帰宅する最中、カルヴィンの胸の鼓動は治まるどころか、時が経つにつれて大きくなるばかりだ。  玄関ホールを抜けて屋敷に戻るなり出迎えてくれたのは、今、カルヴィンが一番会いたくないと思っていた人物だった。彼は腕を組み、仁王立ちに突っ立っている。  鋭い視線がカルヴィンを射貫く。その姿は見る者すべてを恐怖に陥れるだろう。誰だって怒れる彼の顔をまともに見られるはずがない。  しかしカルヴィンが彼の顔を見られなかったのは違う理由だった。  ティムから聞かされたクリフォードという人物像が自分が思っていた人物像とはあまりにもかけ離れている。  もし、ティムが言うとおりだったとするならば――。  彼が倒れたカルヴィンを看病し、シャーリーンに花を手向けていたというのならどんな紳士よりも紳士らしい。容姿だけでなく内面も完璧だ。  こうして対峙している今でも鼓動が高鳴るばかりなのに、その彼から視線を注がれ続けるにはあまりにも身がもたない。  堪えられなくて彼から視線を逸らせば、突然カルヴィンの躰が掬い取られた。  本当にこれは自分の声だろうか。今までに発したことのない短い悲鳴が上がった。 「どこに行っていたんだ! 君が無事でよかった」 「あの……」  敵視していた相手に突如として抱き留められ、本人はどうしていいのかわからない。

ともだちにシェアしよう!