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Act Ⅲ Scene 1 : fallen angel ⑬
「さっき君が食べた料理なんだが、あれはウォルター伯爵が作ったものだ」
「なっ!?」
あまりの情報の多さにカルヴィンの頭が追い着かない。
あの気遣いある食事も、百合の花も――すべてクリフォードだったなんて驚きだ。
もう疑うどころではなくなっている。胸の鼓動が止まらない。カルヴィンは正体不明なこの動悸をどうにかしたいと思うばかりだ。
「クリフォードはあんな調子だからね。きっと自分が犯人ではないと君に撤回を要求しなかっただろう? おかしいと思わないか? 失礼だが君の爵位は五等爵位のうち第四位の子爵だろう? 少し調べさせて貰ったよ。――もし、仮に第四爵位の君が第三爵位であるずっと目上の伯爵に、『貴方が犯人です』なんて確かな証拠もないまま口にしてしまえば普通はどうなると思う? おそらく死刑だ。しかし君は何も罰せられることなく今、こうして生きている。それがどういうことかわかるかい?」
「クリフォードが、ぼくを見逃したと言いたいのか?」
カルヴィンの言葉に、ティムはにっこりと微笑み、大きく頷いた。
「クリフォードは不器用な男なだけなんだ。世間から散々な言いようで噂されているが、愚かな噂に流されず、君には曇のないその目でしっかりと真実を見極めてくれることを願っているよ」
どうか道を踏み間違えないでくれ、とティムは告げた。そう口にした彼の表情にはすでに笑みはなく、憂いのある眼差しをカルヴィンに向けていた。
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